ヤフー 検索情報削除の新基準公表


3月30日 19時05分

NHK NEWs WEB

ネット上での個人情報の削除を求めるいわゆる「忘れられる権利」の議論が欧米で活発になるなか、検索大手「ヤフー」は検索情報の削除に応じる際の新しい基準を公表しました。この中では、削除に応じる対象として、生命や身体に危険が及ぶ場合や個人が特定できる情報のほか、いじめの被害に関わる情報などを盛り込んでいます。
ヤフーはネットの普及で誰もが情報発信できる一方で、自分の情報を知られることへの不安も高まっているとして、有識者会議を設けてどのような場合に検索情報の削除に応じるのか新たな基準をまとめました。
会社側によりますと、国内の検索事業者で有識者会議を設けて検索情報の削除基準を明確化し公表するのは初めてだということです。
新たな基準では、削除の判断にあたっては、公職者か未成年者かなど削除を求めている人の属性と情報の内容についても性的画像などのようにプライバシー保護の必要性が高いかなどを検討するとしています。
そのうえで、削除すると判断した場合もケースによって対応を変えて、個人の生命や身体に危険を及ぼす可能性があると判断した場合は検索結果そのものを表示できないようにするほか、一般の人の住所や電話番号、病歴などの場合は該当する部分だけを削除するとしています。
また、未成年者に関する情報やいじめの被害のほか、長期間経過した軽微な犯罪に関する情報なども削除の対象になるとしています。
ただ、公職者や企業経営者、著名人の情報などは表現の自由にも関わる公益性が高いものだとして削除には慎重に対応するとしています。
ヤフーは31日から今回の新たな基準に沿った対応を始めるとしています。

ヤフーの別所直哉執行役員は記者会見で「プライバシーに関する意識の高まりもあって、検索サービスに対する信頼を維持するためには、検索事業者が情報の削除にあたって何をどうしているのか外部に分かりやすく明示する必要があった。検索サービスはインターネットがもたらす『表現の自由』や『知る権利』に貢献しており、今回の基準を基に『プライバシーの保護』とのバランスを取って、今後も慎重に判断していきたい」と述べました。
検索情報の削除までの手続きは
ヤフーが検索情報を削除するまでの手続きです。
削除したい検索情報がある利用者は、ヤフーのホームページ上にある「検索結果に関する情報提供フォーム」に削除したいサイトのタイトルやURLなどを入力して送信します。
要請を受けたヤフーは今回の基準をもとに、社内で協議して削除するかどうかを個別に検討します。
削除を判断した場合でもケースによって対応は変わります。
具体的には、個人の生命や身体に危険を及ぼす可能性がある場合や第三者の閲覧を前提としていない私的で性的な画像や動画については「例外的な措置」として、検索結果そのものを表示できないようにするとしています。
一方、それ以外のケースでは、検索結果に出てくるタイトルの部分や「スニペット」と呼ばれる要約文から該当する部分だけを削除し、検索結果に表示しないようにするということです。
なお、今回の基準で削除されるのは、ヤフーの検索サイトの検索結果の情報に限られます。
検索で表示されるサイトの情報そのものの削除についてはそのサイトの運営者に対する要請が必要になります。
欧米では活発に議論
「忘れられる権利」はヨーロッパやアメリカなどで活発に議論され、対応する動きが出始めています。
「忘れられる権利」は去年5月、EU=ヨーロッパ連合の最高裁判所に当たるヨーロッパ司法裁判所が出した判決をきっかけに議論が活発になりました。
この裁判では、社会保険料の滞納を理由に不動産の競売にかけられたスペイン人男性が、問題が解決したあとも16年前の新聞記事がネット上で表示されていたためグーグルに検索結果の削除を求めていました。
これに対し、裁判所は「時間の経過とともに意味を持たなくなったデータは一定の条件で個人の求めに応じて削除する義務がある」として、男性の求めを認める判決を出しました。
この判決では、訴えの元になった新聞記事ではなく、ネット上の情報が掲載されたページへのリンクを検索サイトから削除するよう命じたもので、「忘れられる権利」を認めた判決として注目されました。
一方、アメリカではカリフォルニア州が18歳未満の未成年者を対象に、ネット上に投稿した情報の削除を認める法律をことし1月に施行し、「消しゴム法」として話題になりました。
ただ、アメリカでは、表現の自由を重視するメディアや法律の専門家などから「『忘れられる権利』を認めれば事実上の検閲となり、ネット上の自由な情報の流通を妨げることになる」などという慎重な意見も出ています。
一方、日本では東京地方裁判所が去年10月、「検索結果に表示される記事のタイトルや抜粋が人格権を侵害している以上、検索サイトの管理者に削除義務が発生するのは当然だ」などとして、グーグルに対して一部の削除を命じる決定をして「忘れられる権利」を巡っては日本でも議論が広がり始めています。
グーグルは削除要請の受け付けも
グーグルはヨーロッパでは利用者を対象に削除の要請を受け付けています。
これはEU=ヨーロッパ連合の最高裁判所にあたるヨーロッパ司法裁判所が去年5月、検索結果に表示された個人情報を削除するよう命じたことを受けた対応です。
ヨーロッパで受け付けを始めた去年5月以降、グーグルには23万件を超える削除要請が寄せられたということです。
要請を受けて、グーグルはネット上のサイトの住所に当たるURLを一つ一つ検証し、80万を超えるURLのうちおよそ4割を削除したとしています。
さらにグーグルは、法律の専門家やメディア関係者などからなる有識者会議を設置して、先月、ヨーロッパでの削除の基準についての報告書を公表しています。
この中では、削除を判断する際には、対象者の公的な役割や、個人のプライバシーに強い影響があるかのほか、情報源や時間の経過で情報の重要性が変わったかという4つの基準を踏まえるべきだとしています。
グーグルは個人情報の削除を決めた具体例も紹介しています。
例えばネット上に公開した画像を無断で別のサイトに投稿されたとして削除を求めた女性に対しては、これを認めて該当するサイトへのリンクを削除したとしています。
一方、マイクロソフトも自社の検索エンジン「ビング」で表示される個人情報について、グーグルと同じようにヨーロッパの利用者を対象にした専用窓口を設けて、削除の要請を受け付けています。
独自基準設けているニフティ
インターネット上の個人情報の削除を巡っては検索事業者以外のIT企業でも対応が進められています。
このうち、IT企業の「ニフティ」は、どのような場合にネット上の個人情報を削除するのかを判断する独自の基準を設けています。
この会社には、今月、過去の経済事件で有罪判決を受けた男性から、当時の記事がブログに引用されて就職活動に支障が出ていることを理由にブログを削除してほしいという要請がありました。
これについて、ニフティは事件が報じられてから3年が経過しなければ原則として削除に応じないという独自の基準に従い男性の要請に応じませんでした。
会社によりますと、削除の要請は去年1年間でおよそ400件あったということで、このうち、およそ80件については削除に応じたということです。
ニフティの丸橋透法務部長は「手間はかかるが事業者として必要な社会的コストという面もあり、削除の要請には応じていかないとしかたがないが、バランスをとるのは大変難しい」と話しています。
専門家は
インターネット関連の法制度に詳しい中央大学の宮下紘准教授は「インターネット上の個人情報が増加し、削除を求める一般のユーザーに応えたものとして評価できる。
ただ、削除基準の大枠が公表されているだけで、削除の要請をした場合に、その情報がいつ、どのように削除されるのかという手続きは示されておらず、いつのまにか情報が消されていたということになれば、知る権利や表現の自由という観点から問題が残されていると思う」と述べました。
そのうえで、宮下准教授は「異なる検索サイトの間で統一的な基準を設ける必要があり、検索事業者に基準を丸投げするのではなくて、第三者機関のようなところが統一的な判断の枠組みを示すことが必要ではないか」と述べました。
さらに「プライバシーの権利と表現の自由は、どちらも民主主義にとって非常に重要な価値であり、てんびんにかけて、ケースバイケースで判断せざるをえない」と述べ、プライバシー保護と表現の自由のバランスをとった判断が重要だと強調しました。

インターネット上の表現の自由などに詳しい東京大学大学院情報学環の成原慧助教は「ネットの利用者の多くは検索サイトを通じて、自分の興味のあるサイトにアクセスしており、検索サイトから削除されてしまうと、そのサイトは事実上ネット上に存在しないのと同然となるおそれがある。
検索サイトは利用者の表現の自由や、知る権利の実現に貢献するインフラとしての役割を担っており、検索サイトからの情報の削除は慎重な判断が求められる」と指摘しています。
そのうえで、成原助教は「表現の自由に重きを置くアメリカでは、検索サイトのようなネット上の情報の媒介者に関する表現の自由を手厚く保障する法律もあり、情報の媒介者に削除を求めるのは最後の手段だという考えが根強い」と述べ、検索情報の削除は表現の自由や知る権利を踏まえて慎重に対応する必要があるとしています。

カテゴリー: ニュース   パーマリンク