「メリットない」被害届出さず…痴漢、盗撮立件できないケース相次ぐ
千葉県内で多発している痴漢や盗撮行為。ほとんどが電車内や駅構内で発生し、県警は警戒や摘発を強化して防止に当たっている。しかし、容疑者を取り押さえても、被害女性が「急いでいる」「注意してくれればいい」などの理由で被害届を出さず、指導・警告にとどまるケースがあるという。常習犯を摘発できない事例もあり、県警では「犯人が『処罰を受けずに済む』などと味を占めてしまう懸念もある」と、被害者に協力を呼びかけている。
■被害者を説得
「何のメリットがあるんですか!」
4月30日夜、船橋市内を走行中の電車内で、男(45)から痴漢被害に遭った女性(41)は警察官に質問した。
隣に座っていた女性の胸などを触っているのを目撃者に指摘され、男は電車内から逃走したが、改札口付近で取り押さえられた。男は強制わいせつ事件を含め、同種の犯行による摘発歴が5件あり、県警は女性に被害届を出すよう粘り強く説得したが、女性は応じなかった。
痴漢や盗撮行為を立件するには、被害女性の証言は欠かせないため、県警はやむを得ず男に警告して拘束を解いた。県警担当者は「『仕事が終わって早く家に帰りたい』などの理由があったのだろう」と女性の心情を代弁する。
県警によると、今年1~8月の痴漢と盗撮の摘発件数は計163件(概数)。一方、このほか「犯罪事実が確定できずに立件まで至らなかった」などの理由で指導・警告にとどまった件数は計89件。この中には「被害届の不提出」も相当数含まれているという。
不提出の理由は「時間がない」「急いでいる」が多く、前出の女性のように「メリットがない」というのも複数あった。
8月13日にJR千葉駅構内のエスカレーターで、女子高校生(16)がスカート内を盗撮される被害に遭ったケースでも、女子高校生は「先を急いでいる」と説得には応じず、足早に去っていった。警告を受けた男(32)は強制わいせつ事件などの摘発歴が2件あった。
■心理的負担も
東日本大震災直後の3月13日に、市川市内を走行中の電車内で発生した痴漢事件では、被災地出身の被害者の女子大学生(19)が「地震の最中に親に心配かけたくない」との理由で被害届提出を拒んだ。
事情聴取などにはある程度の時間が必要となり、特に否認事件ともなれば慎重な捜査が求められる。このため、被害者に繰り返し当時の状況を思い出してもらうなど心理的な負担も増すことから、捜査関係者からも被害届を出さない女性たちの気持ちに一定の理解を示す声がある。
だが、県警幹部は「こうした犯罪は、同一犯が繰り返すケースが多い。自分が被害届を出して犯罪者が処罰されることが、結果的には、同様に困っている他の女性たちの被害を減らすというメリットにつながる」と訴えている。
産経新聞2011年9月22日