弁護士・後藤啓二さん「児童ポルノ大国から来た男」の皮肉が契機に
--ライフワークの児童ポルノ問題への取り組みのきっかけは
後藤 警察庁でインターネット犯罪対策の担当だった1998年、フランスで忘れられない出来事があります。国際刑事警察機構(ICPO)などによる児童ポルノに関する会議で、司会者から「児童ポルノ大国から勇敢にもたった1人で参加した男」と紹介されました。当時、日本は規制する法律もなく、日本から発信される画像がネット上に蔓延(まんえん)していた。国内では「表現の自由」とまで言う人たちもいました。司会者の痛烈な皮肉に、何とかしなければと思ったのが、問題に取り組むきっかけになりました。
--翌年に児童買春・児童ポルノ禁止法が施行されました
後藤 法律はできましたが、販売目的の所持は禁止されていても、いまだに個人が趣味のために持つ単純所持は禁止されていません。禁止されていないのは、G8(主要国)では日本とロシアだけです。10年以上、この問題を強く訴えてきました。昨夏も日本ユニセフ協会が117万人超の署名を集めて国会に提出しました。自民、公明両党は単純所持禁止に賛成ですが、民主党は積極的ではありません。
--平成19年の内閣府の世論調査でも約9割が「規制すべきだ」と回答しています。なぜ民主党は賛成しないのでしょう
後藤 私も野党時代に党の勉強会に呼ばれて力説したこともあります。その際、何人かの議員が「ある人を陥れようとして庭先に児童ポルノが投げ込まれたり、一方的にメールで送りつけられたりしたら逮捕される可能性がある」と。私には理解できませんでしたが、当時は野党だからこんなことを言うのだと思っていました。
--政権与党になっても変わっていない
後藤 昨年8月にも民主党が改正案を提出しましたが、捜査権の乱用、冤罪(えんざい)の恐れがあるとして、単純所持の禁止は見送られ、非常に失望しました。ネット上に流出した女児の画像を放置し続けることになり、政権を担う与党としては到底あり得ない対応です。
--単純所持の禁止を求める目的は
後藤 愛好者がいるから児童ポルノは作られ、作る方は金もうけができる。単純所持を禁止することで、完全ではないにしろ需要を制限でき、供給も抑えることができる。世界の国々で当たり前のようにできているのに、日本は私が皮肉られた時代とほぼ同じ状況です。
--児童ポルノ問題への関心は高まっている
後藤 子供を持つ親や女性にとっては切実な問題であっても、まだ国民全ての関心が高いとはいえない状況です。普通に暮らしていたら児童ポルノが目に触れることもなく、問題意識を持つまでに至っていないかもしれない。しかし、児童ポルノは性的虐待であり、許されない犯罪です。一度ネット上に画像が出るとほぼ回収不可能になる危険性があり、被写体となった女児は成長するにつれ心の傷は深くなっていきます。現状を改善するには法改正が必要です。それを政治にさせるには国民の支持が大切なので、より多くの国民に実態を知ってほしいと切実に願っています。(聞き手 池田祥子)
産経新聞2012年2月2日