富山・強制わいせつ:告訴能力差し戻し審 子どもに向き合った判決 権利保護団体らが評価 /富山

子どもの意志に向き合った判決--。母の交際相手の男から強制わいせつの被害を受けた10歳11カ月の女児に告訴能力があるのかが争点となっていた事件で、富山地裁が14日に下した差し戻し審の判決では被告の男に1審より重い刑が言い渡され、子どもの権利保護を訴える団体らからは歓迎する声が聞かれた。【大森治幸、成田有佳】

 NGO「ECPAT/ストップ子ども買春の会」(東京)の宮本潤子共同代表は「処罰してほしいという子どもの意思にしっかりと向き合った判断だ」と判決を評価。その上で「今回の被害者以外にも多くの子どもたちが沈黙の中で苦しんでいるはず。これをきっかけに子ども一人一人の意志や状況を検討、尊重して、証言を得ていくシステム作りが求められる」と指摘した。
また、虐待などを受けた子供のシェルターを日本で初めて開設した社会福祉法人「カリヨン子どもセンター」(東京)理事長の坪井節子弁護士は、告訴能力を認めた司法判断を改めて評価した上で「性犯罪を受けた子どもの中には、自分に落ち度があったのではと自分を責める子もいる。刑事裁判の一つの意義は、そうした子どもに『勇気を持って訴えてよかった』と誇りを取り戻してもらうことだ」と指摘。一連の裁判が終結することで、女児の心身の回復を願った。
強制わいせつ罪などは被害者側からの告訴がないと起訴できない親告罪だ。しかし、今回のように能力を否定される場合もある。このような場合や報復を恐れて告訴をためらうなどする「泣き寝入り」を防ぐため、内閣府の調査会は今夏、強姦(ごうかん)罪を親告罪から外し、捜査当局が職権で起訴できるよう法改正を求める報告書原案をまとめた。
坪井弁護士は「子どもの性犯罪については告訴を本人に選ばせるのは酷。親との関係で悩む子もおり『親告罪でなければどんなに楽なのに』と思うケースは多い」と話した。
今回の判決を受けて、富山地検の真田寿彦次席検事は「1審段階から、裁判所は、どういう被害かを理解し、悔しい、悲しいという気持ちを持ち、犯人に対して処罰を求めたいのかを、年齢ではなく被害者それぞれの能力で検討すべきだった」とコメント。一方、弁護側は被告と話して対応を決めるとしている。
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■視点
◇被害者の権利に目を向けよ
一連の公判を通して10歳女児にも告訴能力があることがはっきりと認められた。子どもの権利を守る上で、今後、有意義な判例となるだろう。

今回の事件のように告訴が必要な犯罪に、低年齢の子どもや知的障害者が被害にあった場合、親権者などが代わりに告訴できる。しかし、今回はその親権者である母が一連の事件の共犯的な地位にあった。そのため、母からの告訴はなく、1審は祖母から出された告訴の形式的な有効性に疑問をつけ、起訴を無効とした。2審の高裁支部が女児の告訴能力を認めたことで、女児の男に処罰を求める意志が裁判に生かされることになった。
裁判で加害者が罪を認め、反省し、刑に服することが、被害者が立ち直るきっかけになる。告訴能力のある無しで、そのきっかけが奪われて良いのだろうか。裁判所は被害者の権利にもっと目を向けるべきだろう。
ただ、今回は女児の供述の信用性は争われなかったが、子どもは記憶がゆらいだり、ゆがめられたりする危険性が高い。そのような子どもから確かな証言を引き出すために、専門の面接者が被害者に聴いて証拠化する「司法面接制度」など、より効果的な聞き取り方法を検討する時期に来ていると言えよう。司法の絶え間ない改革に期待したい。【大森治幸】
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■ことば
◇10歳の告訴能力が争われた強制わいせつ事件
富山市内のホテルで11年6月、当時10歳11カ月の女児が母親(39)の交際相手だった田中実被告(43)にわいせつな行為をされるなどした事件。1審・富山地裁は、この女児が幼いことを理由に告訴能力はないと判断。強制わいせつ事件の起訴には被害者の告訴が必要として、起訴を無効とする公訴棄却とした一方、同時に起訴された別の事件については有罪とし、男に懲役13年の実刑判決を下した。これに対し、検察側、被告側の双方が控訴。女児に告訴能力があるかどうかなどが焦点になった控訴審では、名古屋高裁金沢支部が7月、女児の告訴能力を有効とし、審理を地裁に差し戻す判決を下した。差し戻し審判決では告訴能力を認めたうえで、田中被告に1審を上回る懲役14年の実刑判決を言い渡した。
毎日新聞11月15日朝刊

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