子供への性犯罪 巧妙に心理テクニックを利用した「SNS グルーミング」が多発 増加傾向にある“デジタル性被害” 「グルーミングは『相手』が悪」と考えることが大事
京都市で女子児童の性的な画像を所持した罪に問われた無職の男が、7月19日の初公判で起訴内容を認めました。子供が性的な画像を要求される被害は増えています。「デジタル性被害」は夏休みに急増するとも言われます。7月13日に刑法が改正されましたが、はたして子供たちを守ることはできるのでしょうか? ポルノ被害者の相談・支援を行うNPO法人「ぱっぷす」の理事長、金尻カズナさんに聞きました。
■毎年多数の「SNSグルーミング」による性被害が起きている
子供たちの身近なところに“デジタル性被害”が迫っています。子供の性被害の実態を表すデータがあります。SNSがきっかけとなった事件に関する、18歳未満の被害児童数の推移をみると、高止まりの傾向にあって、2022年は1732人でした。自撮りした裸の画像をSNSで送信したことがある児童は577人いて、その半数以上が中学生だというデータもあります。 このような被害の相談は多いのでしょうか?
【NPO法人ぱっぷす 金尻カズナ理事長】 「『ぱっぷす』への相談ですが、6月だけでも児童のクルーミングの被害事案は45件ほど寄せられています。最低年齢は13歳で、中高生の被害相談が多い傾向にあります。増加傾向にあると認識しています」
SNSをきっかけにした被害が増えていますが、その犯罪を「SNSグルーミング」と呼びます。性的な目的で子供を手なずけ、心理的にコントロールして、わいせつ画像を送らせたり、実際に会ってわいせつな行為におよぶ犯罪です。
【NPO法人ぱっぷす 金尻カズナ理事長】 「スカウトとかさまざまな誘い文句が使われることがあります。夢や希望が弱みになるわけです。そういった夢や希望を抱いてる方に対して、言葉巧みに言いくるめて、 被害が発生するケースがあり、そういったものもグルーミングの1つです」
■法改正で「グルーミング罪」が新設
7月13日から刑法が改正されましたが、金尻さんは国の審議会で政策提言もされたということです。改正された内容を整理します。 いわゆる「グルーミング罪」が新設されました。16歳未満の子供に対し、 ・性的な画像や動画を撮影させ、送信を要求する段階で、懲役1年以下または罰金50万円以下が科せられます ・わいせつ目的でだましたり、お金を渡す約束をして面会の要求をすること ・実際にわいせつ目的で面会すること このような行為が処罰の対象になります。 「要求」「面会」といった文言が書かれ、処罰の対象になった点が大きく変わったところなのですね?
【NPO法人ぱっぷす 金尻カズナ理事長】 「これまでは実際に加害者がわいせつな行為におよばなければ逮捕できませんでした。逮捕されてもいわゆる“淫行条例”など条例での処罰しかありませんでした。今回の法改正によって、わいせつ目的で面会を要求すること自体が犯罪であるとなったのが、大きな変更点になります」
法律の専門家は、今回の法改正をどう評価しているのでしょうか?
【関西テレビ 加藤報道デスク】 「弁護士の方も、わいせつ行為に至る前の段階を取り締まることができるのが画期的だと言っています。ただ一方で要件になっている“脅す”とか“うそをつく”というところを立証するのがまだ難しく、これがどれだけ適用されるかはまだ未知数だということです」
【NPO法人ぱっぷす 金尻カズナ理事長】 「正直なところ量刑は軽いなと私どもは思っています。きちんと処罰しないと加害者は減りません。残念ながら、今、加害者はSNS 上で声をかけ放題、やりたい放題な状況が続いています。ただし法律があるのとないのとでは全然違って、今回これが犯罪になったということが、とても大きいと考えています」
■SNSグルーミングの実例 犯罪者はさまざまな心理テクニックを駆使してくる
「SNSグルーミング」の具体的なやり取りについて、中学生の女の子の実例を紹介します。 ・「来年の高校受験頑張る」と入れると、「こんにちは応援してます」とメッセージが届きました。 ・たわいもない会話が続き、「模試の結果がイマイチ」と言うと、「大丈夫?落ち込まないで」と優しく励ましてくれました。 ・次第に「かわいいだろうな」「写真送れたりする?」と言ってきます。 ・最終的には「性的な行為で発散できるよ。みんなやってるし」「その動画送ってよ」というところまでくるそうです。
距離感を近づけて、性的な要求をしてくるといった手口が横行しているのでしょうか?
【NPO法人ぱっぷす 金尻カズナ理事長】 「さまざまな言葉を使って若年層をグルーミングしていくわけです。加害者は、100人に声を掛けて、そのうち1人でも当たればと考えています。その中で『かわいいね』とか優しい言葉を掛けるんですけども、その『かわいいね』という言葉の延長線上に性的なことがあります。 グルーミングの中で『みんなやってるよね』『よく聞くよね』という形で一般化させたり、『君のため』と恩を着せたりするんですね。そういったことを繰り返し要求されて、人は『お返しをしないといけない』と錯覚してしまうことがあるんです。写真を送るとしても、最初は小さな要求で、顔写真とか性的じゃない写真を送らせて、そこからどんどんリクエストしてきて、一度でも応じてしまうと、そこから大きな要求に応えてしまう、“フット・イン・ザ・ドア“という心理効果を利用してくることがあります。 あと短期間で繰り返し要求されると、好感度が上がってしまう、“ザイオンス効果“というものがあります。そういったさまざまな心理テクニックを使って、若年層に性的な画像を送らせることができてしまう状況があります」
大人が考えるよりも、子供たちが写真を送るハードルは低いのでしょうか?
【NPO法人ぱっぷす 金尻カズナ理事長】 「これは子供に限った被害ではなくて、大人も 実際に被害に遭っている状況があります。 人はSNSを使って知らない人とコミュニケーション取るとドキドキ興奮しますよね。人はその興奮状態と恐怖を感じている状態の区別がつかなくて、さらに被害に遭ってしまうことがあり、本当に深刻な状況になります」
■「グルーミングは『相手』が悪!」という考えが大事
被害に遭わないために、金尻さんによると「グルーミングは『相手』が悪!」という考えが大事だということです。
【NPO法人ぱっぷす 金尻カズナ理事長】 「100パーセント加害者が悪いんです。性的な画像を求めてくることが犯罪なので、そういった意味で今回の法改正はとても意義があると認識しています」 被害に遭う前に防ぐのが一番ですが、もし被害に遭ってしまったら、どう相談したらいいのでしょうか?
【関西テレビ 加藤報道デスク】 「被害に遭ってしまった方や、もしかしたら被害だったかもしれないって思った方は、ぜひ相談してください。金尻さんの『ぱっぷす』でも匿名で相談を受けていますし、あと警察に全国共通の性犯罪被害相談電話などもあります。少し勇気がいるかもしれませんが、本当に犯罪なので、ぜひ勇気を持って相談してほしいと思います」
ここで関西テレビ「newsランナー」視聴者から質問です。 「Q.子供が携帯チェックも相談もさせてくれない。何を目印にするべき?」
【NPO法人ぱっぷす 金尻カズナ理事長】 「親にとっては被害に遭っているんじゃないかと心配されると思います。その時に携帯のチェックが、とても高いハードルになったりします。まずは親と子供の間でルールを作ることがとても重要です。ルールも一方的に押し付けるのではなくて、子供はここまでしたい、 親はこれが心配だからやっぱりだめだよ、と認識合わせをしてルールを作ることが大切です。 そして子供が困ったときにサインを見逃さない。特に子供の表情が変わったり、ご飯を食べないといった小さなサインがきっかけになって、親が気付くケースもあります。まずは親子でコミュニケーションが取れる状況を作って、小さな目印を探していくことが大切だと思っています」
犯罪の件数は横ばいか減っているようなデータがありましたが、実際どうなのでしょうか?
【NPO法人ぱっぷす 金尻カズナ理事長】 「より巧妙化、先鋭化していくんです。2カ月前まで使ってた手口が、全然違う手口になっていたりすることはザラですので、常に新しい事例をフォローアップしていく必要があります。あと子供の場合、『親からそんなことをする子供だと思われたくない』という考えが働きます。親に話せない時は、どうか『ぱっぷす』のような支援団体など、匿名でも相談を受けている団体があるので、そこに相談していただきたいと思っています」
まずは子供が被害に遭わないようすることが大事です。そしてもし被害に遭ってしまったら相談できる体制を整えることが大切です。